大阪地方裁判所 平成元年(ワ)1159号 判決 1990年10月26日
原告(反訴被告)
松田忠利
右訴訟代理人弁護士
横山精一
同
坂田宗彦
被告(反訴原告)
大阪西鉄観光バス株式会社
右代表者代表取締役
亀重則
右訴訟代理人弁護士
松隈忠
主文
一 本訴被告は本訴原告に対し、金二五万二九六〇円、及び内金一一万三二四四円に対する平成元年二月二三日から、内金一三万九七一六円に対する同年七月一一日から、各支払済みに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。
二 本訴原告のその余の請求を棄却する。
三 反訴原告の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、本訴について生じた費用はこれを五分し、その一を本訴被告、その余を本訴原告の、反訴費用は反訴原告の各負担とする。
五 この判決は、本訴原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 本訴請求
本訴被告(反訴原告、以下、被告という)は本訴原告(反訴被告、以下、原告という)に対し、金一二五万二九六〇円、及び内金一一一万三二四四円に対する平成元年二月二三日から、内金一三万九七一六円に対する同年七月一一日から、各支払済みに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴請求
原告は被告に対し、金二〇〇万円及びこれに対する同年六月七日から支払済みまで、年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 争いのない事実
1(1) 被告は一般貸切旅客自動車運送事業を営む株式会社である。
(2) 原告は、昭和四二年被告に入社し、現在バス運転手として勤務し、被告の従業員で組織する大阪西鉄観光バス労働組合(以下、組合という)の副委員長である。
(3) 山崎優(以下、山崎という)は、同六三年当時、被告の運行管理係として勤務し、組合の委員長であったが、同年一二月下旬、組合を脱退し被告の運行係長に就任したものである。
2 原告は、同六三年一〇月一三日から二泊三日の日程で、オリエンタルガイドクラブ(以下、クラブという)から派遣されたバスガイド安藤清子(以下、安藤という)と共に近畿ツーリスト株式会社(以下、近畿ツーリストという)の顧客を島根県に送迎する予定であった。
3 被告は原告に対し、同六三年一一月二九日到達の書面により、左記のとおり、被告就業規則所定の懲戒規定に基づき各処分を行った(以下、本件各処分という)。
記
(1) 第一次処分(同六三年一二月一日から同月七日までの出勤停止)
<1> 処分理由事実
原告は、同六三年一〇月一三日早朝、被告の平野車庫において、安藤に対し、「お前はわしの専属か。明日は車の天井をみがくから手伝えよ」等の業務外の指示をしたり、また「嫌味」を繰り返し、同女が天井拭きを断るや「お前きついんか。きついんやったらこんでもええぞ」と暴言を吐いた。
<2> 処分根拠
就業規則六三条二項二号(他人に対し、不法に辞職怠業を強要したり、教唆扇動したり、若しくは暴行脅迫を加え又は業務を妨害したとき)、同項三号(業務上の指示命令に不当に従わず、職場の秩序を紊したり又は乱そうとしたとき)、同項一四号(会社構内において他人に暴言、暴行を加えたとき)所定の懲戒解雇事由(以下、第一次処分根拠という)に該当するが、出勤停止処分とした。
(2) 第二次処分(同六四年一月一日から同月七日までの出勤停止)
<1>処分理由事実
原告は、安藤が原告の暴言に耐えいったんは乗車したにもかかわらず、配車先の天王寺駅に行くまでの間もいびりを続けたため、ついに同女は降車してしまった。そのため、往路はバスガイド無しの旅程となり、近畿ツーリストから厳重な注意を受け、取引先に対する永年の信用を失うと共にクラブからも厳重抗議及びガイド派遣中止の申入を受けた。
<2> 処分根拠
就業規則六三条二項二一号(故意又は重大な過失により会社に重大なる損害を与えたとき)所定の懲戒解雇事由(以下、第二次処分根拠という)に該当するが、出勤停止処分とした。
4 被告は、本件各処分に基づき、原告の同六三年一二月及び平成元年一月の各賃金から各五万六六二二円、平成元年度夏期一時金(支払時期同年七月一一日)一三万九七一六円を控除した。
二 主たる争点
1 本件各処分理由事実の有無
【第一次処分について】
(1) 被告
原告は、運行管理者の経験があり、乗客のある場合にはワンマン運行が厳禁されていることを知り、当日、山崎からガイドの補充が不可能であることを聞かされていた。しかるに、原告は、第一次処分理由事実記載のとおり、些細なことから安藤と口論し、同女との対立を解消する努力を怠った。その結果、原告は安藤に降車を余儀なくさせ、ワンマン運行を行った。これは安藤に対する業務妨害であると共に被告の観光バス事業の安全を危うくし、職場の秩序を乱すものである。
(2) 原告
原告は、安藤に対し、バスの天井拭きの手伝を依頼したにすぎず、山崎から注意されこれを撤回しており、他に暴言や嫌味等を述べていない。
【第二次処分について】
(1) 被告
原告は、安藤が気を取り直して乗車したにもかかわらず、その後は、安藤を無視し、ことさらシャクリ運転(アクセル、ブレーキを交互に踏む等して車体に前後の揺れを生じさせる運転)を繰り返す等し、同女をいびり続けたことにより、同女は降車を余儀なくされ、原告はワンマン運行を行った。そのため、被告は、近畿ツーリストやクラブからも抗議を受け、有形無形の損害を被った。
(2) 原告
原告は、出庫してから天王寺駅に到着するまで沈黙しており、安藤に対する嫌がらせやシャクリ運転をしておらず、原告の言動と安藤の降車とは無関係である。安藤は、連続勤務により体調が悪く、精神的にも不安定であったため、原告の些細な言動、態度に苛立ちを覚え、自ら職場を放棄したのであり、山崎は同女の降車を承認し、原告にワンマン運行を指示したものである。また、近畿ツーリストから被告に対する抗議はもとより、注文のキャンセル・減少はない。
2 懲罰委員会による協議決定の不存在
被告は、本件処分について労働協約に基づく懲罰委員会の協議決定がなされた旨を主張するのに対し、原告はこれを否認する。
3 不当労働行為の成否
原告は、組合副委員長である原告を嫌悪し、組合委員長の山崎と共謀のうえ、<1>原告が副委員長を辞任することを強要し、<2>ユニオン・ショップ協定があることを利用し、山崎をして原告を組合から除名させたうえ、原告を解雇し、<3>組合が原告の除名を撤回するや、本件各処分に及んだものであるから、本件各処分は不当労働行為により無効であると主張し、被告はこれを争っている。
4 慰謝料請求権の有無
原告は、本件各処分及び右不当労働行為により多大の精神的苦痛を受け、慰謝料は一〇〇万円を下らない旨を主張し、被告はこれを争っている。
5 被告の業務に対する信用失墜行為の有無
(1) 被告
原告は、業務部長補助職の業務(バスの配車、運転手、ガイド等の手配運行全般にわたる業務)の経験があり、派遣ガイドの確保、処遇が営業成績を左右することを知っていた。しかるに、前記本件各処分理由事実記載のとおり、安藤に対し、業務外の指示、暴言、嫌味を繰り返して降車を余儀なくさせ、その就労を不能にしたうえ、ワンマン運行を強行し、当日の乗客の行楽を不快にした。そのため、被告はクラブと近畿ツーリストから、厳重な抗議と再発防止の善処を求められた。また、原告がガイドとトラブルを起こしワンマン運行したことが、旅行業者、観光バス業界において失笑と軽蔑を招き、被告の信用を失墜させた。これによる損害額は二〇〇万円を下らない。
(2) 原告
原告は安藤に対し、暴言・嫌味等を述べていない。山崎は、安藤の降車を承認したうえ、原告に対し、ワンマン運行を指示したものであり、原告の態度・言動により被告の業務上の信用が失墜した事実はない。
第三判断
一 本件の事実経過等について
争いのない事実、証拠(<証拠略>)と弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。
1 被告は観光バスの運行を業とし、自社ガイドの外クラブ等からガイドを派遣してもらっている。原告は、昭和四二年一二月被告に入社し、観光バスの運転手として勤務してきた(同五九年一二月及び同六一年二月から各半年間運行管理に従事)。この間、原告は組合に加盟し、本件処分当時も副委員長の地位にあった。
2 被告では、運転手とガイドの組み合わせを固定していないが、原告は同六三年一〇月上旬までに安藤(当時四六歳)と二回(同六三年九月と一〇月上旬)乗車勤務を行った。しかし、両者間でトラブルはなかった。
3 原告は、同六三年一〇月一三日、玉造・隠岐島方面に二泊三日の乗車勤務をすることになった。被告は安藤に対し、同月一二日、同女が連続二三日間の乗車勤務により極度の疲労状態にあることを知りながら、原告車への乗車を依頼した。これに対し、安藤は、心身ともに疲労しているとしてこれを断った(ガイドは約一〇日に一回の休暇をとれるが、同女は他のガイドに比較して著しく過重な勤務状況にあった)。しかし、被告は、山崎及びクラブの森下チーフ(以下、森下という)を通じ、「他のガイドの乗車は困難なので、休暇は無理であるが、旅行先で一日(同月一四日)休める」として乗車を要請したので、安藤はやむを得ず、右乗車を承認した。
4 原告は、同月一三日午前六時四〇分頃、被告営業所(平野車庫)に出勤したところ、安藤はバスの窓拭きの最中であった。原告は安藤と挨拶を交わしたが、前記のとおり、以前にも同女と組んだことがあったので、「まるで専属みたいやな」といったところ、安藤は馬鹿にされたと感じ、内心立腹した。原告は、翌日の勤務終了後にバスの天井拭きをしようと考え、安藤に「手伝うてくれへんか」と頼んだ。しかし、安藤は、気分によっては好意で業務外のバスの清掃(天井拭きも含む)を行うこともあるが、原告の態度が気に入らなかったことや、心身共に疲労しており、翌日は休息可能との前提で乗車を受諾したので、「明日は眠る」としてこれを断った。これに対し、原告は、「聞き違いではないのか。一遍聞いてみい」と述べたことから、安藤は右経過を山崎に報告した。そこで、山崎は安藤に天井拭きの手伝は不要であることを告げ、原告に対し、安藤の前記勤務状態を説明し、天井拭きの手伝いをさせずに休息させて欲しいこと、安藤が乗車しなければワンマンで運行せざるを得なくなること等を説明したところ、原告は山崎の指示を了解した。
5 右経過を辿り、安藤は気を取り直し原告車に同乗したので、原告は予定時刻を約一五分遅れて天王寺駅(第一配車場所)に向かったが、車中では互いに無言であった。その際、安藤は、依然体調が悪かったうえ、更に原告が癖となっているシャクリ運転を行ったことから、再び気分を害し、勤務を続行する意欲を失った。そこで、安藤は、天王寺駅に到着するや、直ちに森下に電話し、同人を通じて山崎に対し、原告車を降車したい旨を伝えた。これに対し、山崎は、当日、他のガイドが原告車に乗車することは不可能であることを知っていたが、森下チーフに対し、安藤を乗車させることを積極的に要請することなく、「降車するのも仕方がない。安藤に被告営業所に戻るように伝えて欲しい」旨を回答し、安藤が天王寺で降車することを承諾したので、森下はその旨を安藤に伝えた。安藤は被告側が降車を承認したものと考え、原告に対し、森下と山崎の承諾を得た旨を述べて降車し、被告営業所に戻った(なお、山崎は、同日午前九時頃、安藤から事情聴取したが、原告車に同乗するように強くは説得しなかった)。
6 原告は直ちに山崎に電話で右経過を報告し、指示を仰いだところ、山崎は「他のガイドを派遣するのは不可能であるから、ワンマンで運行するほかない」として、ホテル阪神(第二配車場所)に向かうように指示した(山崎は近幾ツーリストの添乗員に安藤の代役を依頼する意思でいたが、原告には伝えなかった)。そこで、原告はガイドなしで運行せざるを得ないと判断し、「ガイドがいないならば、ホテル阪神から改めて連絡しない」と告げたところ、山崎もこれを了解したので、ホテル阪神に向かった。
7 原告は、天王寺駅とホテル阪神で乗客四〇名余を乗車させた。近畿ツーリストの添乗員辻本らは原告に対し、今更キャンセルは不可能としてガイド無しの運行を要請した。そこで、原告は乗客に対し、ガイドが乗車しないことを陳謝するとともに、辻本が保安要員として同乗する旨を説明し了解を得たうえ、目的地に向け出発した。
8 原告は、バスを運転しながら、旅行先の名所を自ら案内し、無事玉造の旅館に到着した。翌朝、原告は山崎の手配した永松ガイドとともに乗車勤務を終了した後、単独でバスの天井拭きを行った。そして、翌日も永松ガイドが同乗し、原告運転の観光バスは解散場所の大阪駅に無事到着した。その際、原告は乗客に対し、ワンマン運行につき改めて陳謝したが、客らは特に苦情を述べなかった。
9 クラブでは、同年一〇月三〇日、ガイドのミーティングがあり、同僚から安藤が原告とのトラブルが原因で降車したことに対し、批判的意見が出された。安藤は、同僚の派遣先で右降車行為を批判する意見が続いたことから、同六二年一一月限りクラブを退社した。
10 被告は、同年一一月、クラブから、原告が安藤に対して行った発言内容(<1>おまえはわしの専属か、<2>明日は天井磨くから手伝えよ、<3>えっ、おまえきついんか。きついんやったらこんでもええぞ、<4>わし一人でも行くからなぁ」)は不適当であること、原告は乗務員として不適当であるから、良識ある処理を期待する」との抗議を受けた。また、その頃、被告は近畿ツーリストからもワンマン運行につき口頭で抗議を受けた。
二 本件各処分事由の有無
1 争いのない事実、証拠(<証拠略>)によれば、被告は、就業規則で本件第一次、第二次処分根拠(各懲戒事由)を規定しており、第一次処分理由事実は同六三条二項二、三、一四各号に、第二次処分理由事実は同項二一号の懲戒解雇事由に各該当するとしたうえ、情状酌量により、原告に対し、本件各処分を行ったことが認められる。そこで、本件各処分理由事実の有無について検討する。
(1) 第一次処分について
前記一認定の事実によれば、原告の安藤に対する言動は必ずしも侮辱的なものとはいえず、同女も好意でバスの天井拭きを手伝うこともあるのであるから、原告が右手伝いを依頼したことは直ちに不当といえないし、同女がこれを断ることが可能であり、事実、同女は天井拭きの手伝いをしないことになり、いったんは原告車に同乗し、被告営業所を出発したこと等が認められ、これらを総合すれば、原告の安藤に対する言動が就業規則六三条二項二号、三号、一四号に該当するとはいい難い(なお、被告は、原告が安藤に対し、「お前きついんか。きついんやったらこんでもええぞ」と発言し、「嫌味を繰り返した」旨を主張するが、これを認めるに足りる証拠はない)。
被告は「原告は、ワンマン運行が厳禁されていることや、ガイドの補充が不可能であることを知っていたのに、安藤と口論したうえ、同女との対立を解消する努力義務を怠り、その結果、同女に降車を余儀なくさせ、ワンマン運行を行ったものであるから、被告の観光バス事業の安全を危うくし、職場の秩序を乱した」旨を主張する。
しかしながら、前記のとおり、原告の安藤に対する平野車庫における言動は直ちに不当であるとはいえないのみならず、両者間のトラブルは一旦解消したのであるし、その後の原告の安藤に対する言動についても後記(2)説示のとおりであり、被告の右主張は理由がない。
(2) 第二次処分について
前記一認定の事実によれば、安藤は、原告との前記トラブルの後、原告車に乗車し天王寺駅まで乗車したが、その間、原告は終始無言であり、シャクリ運転を行ったので、同女は嫌がらせと感じて再び気分を害し、原告車を降車したこと、そのため原告は往路はガイドなしのワンマン運行を行ったこと、クラブ及び近畿ツーリストから、被告に対し抗議があったこと等が認められるが、原告のシャクリ運転は日頃からの癖であり、ことさら、安藤に対する嫌がらせとして行ったとは認め難いこと、安藤も車中では終始無言であり、原告が無言で天王寺駅までバスを運行したことを安藤に対する嫌がらせとはいえないこと、安藤が原告に対し特に悪感情を抱いたのは過労のため精神的、肉体的に極度に疲労していたためと推認されること、山崎は、安藤の降車意思を知った際、安易に降車を承諾したうえ、原告にワンマン運行を指示したこと、安藤は山崎の承諾により自己の降車につき被告の承諾があったものと判断して降車したこと、クラブの中には安藤の降車行動に対し、批判的意見があること等を総合すれば、原告の安藤に対する右言動は同女に降車を余儀なくさせる程度に違法なものとはいえないし、原告の言動と同女の降車及びこれによるワンマン運転との間に相当因果関係を認めることはできない。
また、被告において、安藤の降車問題を原因とするガイド派遣の停止等や営業収益が減少した事実はなく(大森)、特に被告の信用が失墜したことを認めるに足りる証拠はない。
そうすると、原告に就業規則六三条二項二一号に該当する事由があるとはいえないから、第二次処分も理由がない。
(3) 以上の次第であるから、その余の点について判断するまでもなく、本件各処分は無効である。
三 未払賃金等
被告において本件各処分を理由に原告の同六三年一二月と平成元年一月の賃金から各五万六六二二円(合計一一万三二四四円)を控除し、平成元年度夏期一時金(支払時期同年七月一一日)のうち一三万九七一六円を減額していることは争いがないから、原告は被告に対し、合計二五万二九六〇円の未払賃金等請求権を有する。
四 慰謝料請求権
原告において、本件各処分を受けたことにより、精神的苦痛を被ったことは否定できないが、出勤停止は短期間にすぎず、かつ、その間の未払賃金等の支払を受けることにより、右精神的苦痛は慰謝されるものというべきである。
なお、原告は、被告が原告を嫌悪し、山崎と共謀のうえ、原告に対し、組合副委員長の辞任を強要し、組合から除名・解雇した旨を主張する。しかしながら、右共謀を認めるに足りる証拠がないうえ、右辞任は被告の組合の懲罰委員に対する提案にすぎず(<証拠略>)、実際にも原告は副委員長を辞任しなかったこと(原告)、被告は、組合から原告を除名処分にした旨の通知(<証拠略>)を受け、ユニオン・ショップ協定(<証拠略>)に基づく義務の履行として原告を解雇したが、約二週間後に除名処分撤回の通知を受けるや直ちに解雇の意思表示を撤回し、その間の賃金を支払っていること(<証拠略>)等に照らすと、右の点につき被告の不法行為の成立を認めることは困難である。
五 原告の被告の業務に対する信用失墜行為の有無
前記認定一10のとおり、クラブ及び近畿ツーリストから被告に対し、抗議がなされているが、原告の当日の言動、安藤の降車、ワンマン運行の経緯、被告の損害、相当因果関係の有無は前説示のとおりである。
そうすると、その余の点につき判断するまでもなく、反訴請求は理由がない。
六 よって、原告の本訴請求は、金二五万二九六〇円、及び内金一一万三二四四円(未払賃金)に対する訴状送達の翌日であることが記録上明らかな平成元年二月二三日から、内金一三万九七一六円(一時金)に対する支払日の翌日である同年七月一二日(争いのない事実)から各支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の本訴請求及び反訴請求は理由がない。
(裁判長裁判官 蒲原範明 裁判官 市村弘 裁判官 冨田一彦)